2015.03.23 Monday 11:18

野蛮人の支配

  先週、NHKBS1で、ドイツのワイマール民主制が崩壊し、ヒトラーが権力を掌握するまでの経緯を描くドキュメンタリーが再放送された。私も再見し、「ナチスの手口」を確認した。ヒトラーとその取り巻きはならず者であった。しかし、暴力、捏造、脅迫、そして開き直りによって政敵を抑圧、粛清して、独裁を確立した。

 民主主義は文明社会における政治のルールである。文明社会は、嘘はつかない、公私のけじめをつける、自分と違う考えを持つ他人とも共存するなど、まっとうな常識を持った人間によって支えられる。常識を拒絶するならず者が幅を利かすようになること、つまり野蛮がはびこることが民主主義崩壊の前兆である。

 今の日本をファシズム前夜と呼ぶことは、誇張かもしれない。だが、野蛮が品性を駆逐していることは確かである。総理大臣が虚偽の言いがかりで野党を攻撃し、NHK会長がゴルフに行く車代をつけ回しする。我が国の指導者の品性は小学生以下である。こう言うと子供たちに怒られるか。

 首相は自分には言論の自由があるとして、自分の発言でメディアが委縮しては困ると開き直った。権力を監視する役割を持つメディアや言論人は、ふざけるな、売られた喧嘩は買うぞと言う気合を持たなければならない。品性と怯懦は違う。


東京新聞3月22日


2015.03.16 Monday 23:29

大艦巨砲主義

 戦艦武蔵の船体がフィリピン近くの海底で見つかった。船体とともに沈み、70年眠ってきた戦没者には改めて哀悼の意を表したい。それにしても、この船は旧日本海軍の大艦巨砲主義の象徴であり、軍事の技術革新から取り残された日本の指導者の錯誤の凝集であった。海軍の技術畑の指導者や造船業界にとって大艦の建造が既得権となり、飛行機を中心とする新しい技術体系に転換できなかったのだろうと想像する。

 大艦巨砲主義は、平和な時代にも生き残っている。その代表例は原子力発電である。今から560年前には、原発は未来の科学技術の粋と思われていた。大出力の発電所は経済大国のシンボルであり、巨大な原発をたくさん作ることが経済発展を推進すると信じた人は多かった。しかし、今となっては、廃炉や廃棄物処理まで含めれば、原発はあまりに巨大で高コストなシステムであることは明白である。にもかかわらず、大艦巨砲主義の信奉者は変化を拒否して、新しい技術の成長を抑え込もうとする。

 原発は戦艦と違って海底に沈むことはない。もっと恐ろしいことに、日本全体を放射能の海の中に沈めるかもしれない。70年ぶりに発見された武蔵の残骸は、なぜ日本が戦争に負けたのかを教えてくれている。この映像を単なる感傷の対象にしてはならない。


東京新聞3月15日


2015.03.09 Monday 10:15

存立の危機

  最近の安保法制をめぐる議論は常軌を逸している。昨年71日の閣議決定について、憲法の枠を逸脱するという批判があり、これについての国会論議はまだまだ必要である。にもかかわらず、安倍内閣はあの閣議決定からさらに踏み出すような安保法制の要綱を打ち出している。我が国が直接攻撃を受けていなくても集団的自衛権を行使できるようにすることが、新たな法制の眼目とのことである。

 そのような状況を国の存立が脅かされる事態と呼ぶらしいのだが、日本の存立を脅かしているのは誰かと問いたい。日本を存立の危機に瀕させようとしているのは、外敵ではなく、原発事故であり、人口減少であり、子供の貧困などである。これらはことごとく内なる問題である。そして、そうした実在の、眼前の危機を放置して、安保法制いじりにうつつを抜かしている政治家こそ、我が国を存亡の危機に導いているのである。

 予算委員会の質疑で安倍首相が野次を飛ばした場面をたまたまテレビで見ていた。安倍という人は、一国の指導者にはふさわしからぬ、幼稚な人物だとつくづく思った。こんな政治家が首相として、やりたい放題をしていることこそ、我が国の存立を脅かす最大の危機である。日本人の大半は、危機感について茹でガエル状態なのだろうか。


東京新聞3月8日


2015.03.02 Monday 10:17

権力批判という仕事

 このところの安倍政権の粗雑さ、傲慢さは前代未聞である。昔の自民党の指導者が持っていた、権力を担うことへの畏れや、国を代表することに伴う緊張感は、とうの昔に消滅した。安倍首相の日教組をめぐるヤジは、もはやこの人が首相どころか、国会議員の器でもないことを物語る。

 9年前に民主党の若手議員が、当時の自民党幹事長がIT企業から裏金をもらっていたと国会で発言し、それが虚偽と判明して議員辞職に追い込まれた。安倍首相がしたのは、それと同じことである。他党に向かってありもしない違法献金を追及したのである。

 先日、一線のジャーナリストを招いた勉強会で、メディアには民主党の嘘を糾弾し、自民党の嘘は放任するという二重基準があるのではないかと尋ねてみた。すると、ある記者が、意図して基準を使い分けているのではないとしたうえで、選挙で圧勝し、高い支持率を続ける政権を批判する場合、メディアも身構えることは不可避であり、そのせいで自民党への批判を控えているように見えるのかもしれないと言った。

 ならば、潮目の変化をいち早く察知して、落ち目に向かい始めた政権には厳しい追及を加えてほしい。前農水相の資金疑惑に加え、文科相、環境相と疑惑が続出している。仕事をするなら今でしょう。


東京新聞3月1日


2015.02.23 Monday 10:12

テロに屈しない

 

 あの事件以来、誰もが「テロに屈しない」と叫ぶようになった。しかし、最近の政治の動きを見るにつけ、とりわけ政治家やメディアがテロに屈しないと唱和すればするほど、世の中全体はテロリズムに制圧されていくという逆説が存在するように思える。

 共産党の志位委員長の代表質問に対して、テロリスト政党というヤジが飛んだ。気に入らない政党をテロリスト呼ばわりするような者に、国会に議席を持つ資格はない。日本の国会議員の劣化を物語る出来事である。安倍首相はテロ事件への対応について厳しい追及を受けそうになると、テロに屈しないと言って、それ以上の議論は拒否している。

いずれの例も、テロという言葉は自分の政治的な優位を得るための道具となっている。そして、テロという言葉が一度使われたら、メディアも深い検証を放棄し、政治の世界では議論が止まる。

 テロに屈しないと言うときの主語は何か。個々の政治家はもちろんだが、日本の民主主義と自由こそ、テロに屈しない主語である。権力を持つ政治家がテロという言葉を恣意的に使って、自由な議論と活発な議会政治を封じ込めるなら、それこそ日本の民主主義がテロに屈したことを意味する。テロと闘いには、言論・表現の自由を実践する勇気が必要である。


東京新聞2月22日


2015.02.16 Monday 10:10

呪文

 

 日本人を震撼させたテロ事件は、政治家にとってはこの上なく有効な道具となっている。テロとの戦いと称して自衛隊派兵をもくろむのは直接的な利用である。その他、間接的な利用は枚挙にいとまない。

 沖縄での基地建設強行と並んで、議論のないまま進む原発再稼働とエネルギー政策の逆戻りが典型例である。原子力規制委員会は12日、高浜原発について、新規制基準を満たすとする審査書を決定し、再稼働は時間の問題となった。また、経産省の作業部会では、今後の電源として原発を維持すべきという主張が続々と出されている。

 安倍首相が、日本は変わった、テロとの戦いに乗り出すのだと言うなら、国内におけるテロの脅威を真面目に考えるべきである。原発の安全性は地震、津波などの自然災害だけでなく、人為的攻撃も想定して十分な対策を立てなければならない。原発の安全確保の本当のコストを明らかにすれば、そこまでして原発を継続することが合理的かどうか、議論は深まるであろう。

 あえて言う。テロとの戦いという言葉は、為政者がほしいままに権力を使い、重要な政策課題に関して議論を封じ込めるための、魔法の呪文である。我々が民主主義を支える主権者でありたいなら、こんなちゃちな呪文にだまされてはならない。


東京新聞2月15日


2015.02.09 Monday 10:08

無知のベール

 

 人質事件に対する一連の対応から浮かび上がるのは、安倍政権が国民の生命よりも、この機会に国家としての体面を整えることに意欲を持っているということである。生命軽視は、後藤健二氏の遺族に対して、今もって安倍首相から弔意の表明がされていないことからも明らかである。

 そして、国家の体面が大好きな政治家が、実際の戦いにおいては全く無能であることも、悲しいくらい明らかになった。首相は、中東歴訪の際に行った反テロ演説について、テロリストの心中を忖度すべきではないとして、正当化した。敵を知り己を知ることは、戦いの基本である。敵を知り、出方を探ることを、敵に同情することとして否定していては、賢い戦いはできない。

 首相は国会審議の中で、日本人の安全を守るために憲法9条の改正が必要だと、自説を繰り返した。これまた、己についての決定的無知から発する主張である。自衛隊は紛争地域に乗り込んで力ずくで日本人を救出することなどできない。

 国際舞台で自己陶酔的な演説をし、自衛隊を正規の軍隊として国際的な共同作戦に従事させる。これらはみな安倍首相の自己満足であり、日本人の安全とは何の関係もない。指導者が無知であることについて我々を無知にさせるために、特定秘密保護法がさっそく効果を表しそうである。

東京新聞2月8日


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