2018.07.03 Tuesday 18:40

野党の戦い方

 働き方改革法案への対応をめぐって、野党の足並みが乱れた。ただでさえ少数の野党が分裂しては、政府与党の思いのままに国会を動かすことができる。これまでの安倍政権の動きを踏まえて、野党としての戦い方についてイメージを共有しておかなければならない。
 国会は多数決で物事を決める場なので、政府与党が何としても実現したいと考える法案の成立を野党が阻止することは不可能である。法案の成立については、野党は最初から負ける運命である。しかし、国会審議の中で野党が反対することには意味がある。
 1つの考え方は、国民民主党の路線で、国会での審議を通して問題点を指摘し、付帯決議などの譲歩を引き出すというやり方である。この方法は、法律を所管する官庁に少しでも圧力をかけることを目指す。もう1つは、数の力で押し切られることは覚悟のうえで、政府与党の無理非道を明らかにするために徹底的に戦うという路線である。これは国民に訴え、政府与党への批判を高めることを目指す。
 結論から言えば、審議を通してわずかばかりの譲歩を得るという方法は、現状では実効性がないと考える。働き方改革法案自体が捏造データに基づく欠陥品であり、今の政府与党が道理を踏まえて行動することなど期待する方が愚かである。戦え、野党。

東京新聞7月1日

2018.07.03 Tuesday 18:39

安倍政治をめぐる幻想と幻滅

 6月に入って、米朝首脳会談、大阪での強い地震などいろいろな出来事が相次いで、政治への批判は低下している。各社の世論調査でも、内閣支持率が若干上昇し、不支持率が低下する兆候が表れ、安倍晋三政権は奇妙な余裕さえ漂わせている。通常国会の会期を32日間延長し、働き方改革法案、カジノ解禁を柱とする統合型リゾート(IR)関連法案、参議院の選挙制度改革など、国民には極めて不人気な政策をすべて実現する構えである。

 6月のNHKの世論調査では、働き方改革法案について「賛成」14%、「反対」32%、「どちらともいえない」44%、IR=カジノ法案について「賛成」16%、「反対」38%、「どちらともいえない」36%、参院選挙制度改革について「賛成」9%、「反対」34%、「どちらともいえない」43%という結果が出た。多くの人々は安倍政権が推進する重要政策が有害であることを理解している。また、6月の共同通信の世論調査では、森友学園、加計学園をめぐる疑惑についても納得していないという人が78.5%に達した。モリカケ問題に国民が飽きているというのは、疑惑をごまかしたい側がつく嘘である。

 国民は、政策の適否についてある程度冷静に判断し、政治腐敗に対しては常識的な倫理観を持つ。それらに照らせば安倍政権は落第のはずであるが、国会運営は政府与党ペースで進み、9月の自民党総裁選挙では安倍首相の三選がすでに確実視される形勢である。政策や権力者の行状を見て政権を評価するという従来の民主政治のサイクルが作動しなくなったというしかない。

 様々な問題があるにもかかわらず長期化する安倍政権を支持あるいは許容している民意の一端を示すデータとして、内閣府が今年2月に行った「社会意識に関する調査」がある(https://survey.gov-online.go.jp/h29/index-h29.html)。これによれば、第2次安倍政権が発足した2012年あたりを境に、国民の社会意識に変化が起こっている(以下、小数点以下は四捨五入)。国を愛する気持ちについて、「強い」という答えが12年の46%から18年には56%に増加、逆に「弱い」という答えは12年の12%から18年には6%に半減している。社会全体に対する満足度について、12年には「不満」が55%、「満足」が44%だったが、18年には「不満」が35%、「満足」が64%と大きく逆転した。国の政策への民意の反映程度という質問については、12年には「反映されている」18%、「反映されていない」77%だったが、2018年には「反映されている」30%、「反映されていない」66%と満足度は大きく改善している。良い方向に向かっている分野という質問について、12年には「医療福祉」が23%だったが、18年には32%に増加した。悪い方向に向かっている分野として、12年には「財政」が55%だったが、18年には35%に低下している。

 東日本大震災の衝撃と民主党政権の不手際の後に第2次安倍政権が発足し、大規模な金融緩和によって企業収益改善という成果を上げたことで、政治や社会に対する満足度が改善したことがうかがわれる。しかし、安倍政権下で医療福祉が改善されたという事実はないし、国債残高は累増の一途なのに、財政悪化に対する危機感は大きく減少している。世の中に対する評価の好転は正しい情報に基づいた、論理的・知的な吟味によるものでない。麻生太郎副総理が24日の講演で新聞を読まない人が自民党を支持してくれていると述べたのも、このあたりの機微を理解しているゆえであろう。

 実際、安倍政権は、暗黒の民主党政権、再建の安倍政権というイメージを定着させることに成功した。民主党政権が崩壊して6年近くたつが、安倍首相はしばしば民主党の失敗を引き合いに出して、自分を正当化する。国民の方も、一旦そのようなステレオタイプを固めると、そのステレオタイプを持続するように物事を評価するようになる。政策の効果を評価するから政権を支持するのではなく、政権を支持するから世の中がよく見えるのである。この点については、ウォルター・リップマンの洞察を紹介しておきたい。

「よりいっそう公平無私な心像を求めようとするときに、われわれはステレオタイプに固執してしまうことがきわめて多い。(中略)ステレオタイプの体系はわれわれの個人的習慣 の核ともなり、社会におけるわれわれの地位を保全する防御ともなっているからだ。」(『世論』、上巻、130頁、岩波文庫)

 野党や自民党内の挑戦者が政権を脅かすことはなさそうだ。しかし、安定をもたらす安倍政治というステレオタイプと現実との乖離が否認できないほど広がる可能性はある。綻びが起こる可能性が最も大きいのは、安全保障、外交の領域である。安倍首相は、北朝鮮の脅威を国内政治に利用し、拉致問題については日本人の被害者意識を刺激し続けた。問題解決のために主体的に動くというよりは、相手方との接触を断ち、ひたすら強硬姿勢を叫ぶことが強いリーダーというイメージを作り出すと考えていたのであろう。だが、米朝首脳会談を契機として、朝鮮戦争の終結、核ミサイル問題の終息に向けて米韓中の各国が動き出せば、日本も北朝鮮との国交正常化や拉致問題の解決に向けて結果を出すことを迫られる局面が訪れるかもしれない。

 かつて、前原誠司氏が「言うだけ番長」と揶揄されたが、外交に関しては安倍首相こそ言うだけ番長である。北朝鮮に対して、圧力だけで拉致問題が解決しないのは明らかである。国交正常化の全体のプロセスの中で拉致問題の解決を図るしかない。そして、日朝平壌宣言でうたっているように、日本側は過去の歴史を反省し、補償を支払うことも必要となる。安倍首相にとって、長期政権を実現するうえで、得意としてきたはずの外交で指導者としての真価が問われることとなる。


週刊東洋経済 7月7日号


2018.07.03 Tuesday 18:37

倦まずたゆまず

 先週も政治の堕落を物語る出来事がいろいろと起こった。加計学園理事長が開いた記者会見らしきもの。自民党議員が委員会の受動喫煙の制限を求めたがん患者でもある参考人に暴言を吐いたこと。今や、不祥事は安倍政権の日替わりメニューとなった。
 しかし、私自身が安倍政治の毒気に当たったようだ。デモや集会で話をするのも我ながらマンネリだと思う。けしからんことを次々あげつらっても、どうせ高度プロフェッショナル制度もカジノも淡々と進むのだろう。安倍首相はやすやすと自民党総裁3選を決めるのだろうと思うと、批判の筆を執る気力が起こらない。ぼんやりしているうちに土曜の午後になり、編集部から督促の電話を受ける羽目になった。
 政権批判の先鋒を任じてきた私がこの体たらくでは、まさに向こうの思うつぼである。ここは同じことの繰り返しと言われようとも、おかしいことをおかしいと言わなければならない。
 同時代の読者だけに読まれると思うから、マンネリだと感じるのだろう。80年前、石橋湛山や清沢冽のような勇気あるジャーナリストは過酷な環境で政権批判を繰り返していた。今我々はそれを読み、勇気を得る。ならば我々も、2010年代の日本の愚かさを書き残すことが同時代のみならず、後世の日本人に対する責務となる。

東京新聞 6月24日

2018.07.03 Tuesday 18:36

戦争を終わらせる


 安倍首相が日米は完全に一致と叫んできた以上、米朝首脳会談を受けて、日本も北朝鮮との国交正常化に向けて努力を始めなければならない。険しい道のりだろうが、自民党総裁選の三選も確実視される中、ここは安倍首相にぜひ難事業を成し遂げてもらいたい。
 日朝国交正常化は、日本にとって第2次世界大戦、およびそれに先立つ植民地支配に最終的に終止符を打つ作業である。それこそ歴史に名を残すチャンスである。北朝鮮には巨額の賠償あるいは資金援助もしなければならないだろう。日本国内の右派は反対するかもしれないが、それを抑え込むには安倍首相が最適任である。首相が政治生命をかけて取り組むと言えば、朝鮮総連本部を銃撃したような右翼も、静かにするのではないか。
 安倍首相は、長期政権を維持するために、たびたび北朝鮮の脅威を利用してきた。国難を煽り、国民の中に不必要な恐怖や憎悪を創り出した。圧力一辺倒を唱えていた時には、朝鮮半島に平和をもたらすより、緊張が継続した方が好都合といわんばかりの本音が透けて見えた。
 北朝鮮との対話が困難な環境を招来したのは安倍首相自身である。したがって、自分で蒔いた種は自分で刈り取らなければならない。皮肉ではなく、安倍首相の決意を期待したい。

東京新聞6月17日

2018.07.03 Tuesday 18:36

勧善懲悪の幻想

 財務省における公文書改ざんに関する内部調査の結果が公表された。肝心の改ざんの理由は明らかにされず、麻生財務相は、動機が分かれば苦労はないと、責任者にあるまじき放言をした。
 遠山の金さんや桃太郎侍のような時代劇なら、この場面は、不埒な悪行三昧は許さないとヒーローが悪漢を成敗するクライマックスだろう。しかし、現実の世界にはそんな正義の味方は存在しない。いや、存在してはいけないのだ。民主主義とは、権力者が不埒な悪行を働いた時に、国民自身がこれを成敗する仕組みである。腐った権力者を排除する仕事をヒーローに委託すれば、新しい専制を作り出すもとになるかもしれない。
 野党は少数であり、国民が怒っても権力者は居座りを決め込む。しかし、おかしいことをおかしいと認識し、まともな道理が通る政治を取り戻したいという倫理観を保持していれば、いつかチャンスは来る。今日は新潟県知事選挙の投票日である。新潟県の課題である原発再稼働や農業の持続について県民が的確な選択をすることは、日本全体で正しい方向を回復することに直結する。
 国会前では、大集会が開かれる。国会の外で声を出しても意味はないと冷笑したい奴にはそうさせておけばよい。民主主義を守るには長期的な楽観主義が必要である。

東京新聞 6月10日

2018.07.03 Tuesday 18:35

国会法104条


 5月31日大阪地検は、公文書改ざんや国有地不当値引きに関わった疑いのある財務省職員をすべて不起訴にすると発表した。司法による追及の可能性がふさがれたら、国会で追及するしかない。
 参議院予算委員会は、加計学園に関わる資料について愛媛県に続き、今治市にも提出要請している。この要請の根拠となった国会法104条は、官公署はその求めに応じなければならず、資料を提出しない場合には、その理由を疎明しなければならないと定めている。さらに、その理由を受諾できないときには記録の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求することができると規定している。
 今治市が資料を提出しなければ、参院予算委はその理由を聞いたうえで、同市の資料の公開が国家の重大な利益に悪影響を及ぼすと安倍内閣に声明を出すよう迫ることができる。自分に不都合な資料公開を国益に反するというなら、それこそ笑いものである。
 鍵は、参院予算委の決意にある。今までの資料提出要請は与党も含めて合意したことである。国会法の規定を用いて安倍政権の責任を明確にすることは、与野党を超えた国会の使命である。参院予算委のメンバーは、腐敗した安倍政権の下僕になるのか、国権の最高機関の一員としての責務を果たすのか、熟考すべきである。

東京新聞6月3日

2018.07.03 Tuesday 18:34

傲慢の時代


 政府・与党は、いわゆる働き方改革関連法案を力ずくで衆議院を通過させた。これは、エリートの傲慢という日本の時代精神を象徴している。
 まず、働き方改革という名前そのもの、そしてその中心である高度プロフェッショナル制度は、働く人をモノ同然に扱いたいという経済エリートの傲慢、強欲の産物である。高プロは、一定年収以上の専門職について、定額俸給でいくらでも働かせることを可能にする制度である。その適用範囲が低い所得層に拡大されるだろうことは、過去の派遣労働の拡大の歴史に照らしても、確実である。現代の資本主義は、マルクスの時代のように、人を無際限に使役する野蛮に逆戻りしているようだ。
 そして、この立法過程は政治・行政のエリートの傲慢を象徴している。法案が必要な根拠として厚労省が提示した労働実態に関する調査には多くのミスやでたらめが発見された。それにもかかわらず加藤厚労大臣は法案を推し進め、国会質疑で野党議員から理詰めの追及を受けると、あさっての返答を繰り返し、審議を崩壊させた。そして、過労死被害者の遺族が話し合いを求めても追い返した。この法案を推進する政治家と官僚は、国民と野党政治家を対等な人間とは思っていないのである。
 経営者、大臣、官僚はそんなに偉いのか。

東京新聞5月27日

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