2019.04.11 Thursday 17:35

戦いは続く


 本紙の望月衣塑子記者と新聞労連委員長の南彰氏が著した『安倍政治100のファクトチェック』(集英社新書)を読むと、安倍政権の下でどれだけの虚偽、捏造、犯罪的行為が横行してきたか、改めて教えられる。日ごろ政治を観察している私でさえ、2、3年前のことについては記憶が薄れてしまう。でたらめの日常化こそ、安倍政治の権力維持のための高等戦略である。
 権力者の嘘に慣らされてはならない。権力者による沖縄の人々や原発事故被災者に対するいじめや冷酷非情な仕打ちに対する憤りを絶やしてはならない。すべての人の尊厳と権利が保障される社会を実現することをあきらめてはならない。憲法12条で言う通り、自由や権利は我々自身の不断の努力によって保持しなければならないのである。
 12年に及ぶ私のコラムも、今回が最後となった。途中、己の言説の無力さに意気阻喪することもしばしばあったが、読者の皆さんの励ましのおかげで今日まで書き続けることができた。心よりお礼申し上げたい。
 筆を置くに当たって、今の政治の劣化状況がとめどなく続きそうなことは心残りである。しかし、民主主義を求める戦いは永久運動である。これからも様々な機会で、いろいろな方法を通して、読者の皆さんとこの戦いを続けていきたいと念願している。

東京新聞3月31日

2019.04.11 Thursday 17:34

衰えを知る


 イチローという選手の躍動を見続けてこられたのは、この時代の野球ファンにとっての幸せだった。しかし、この超人も年には勝てない。思ったように球を打ち返せないことへのいら立ちや焦りもあったのではないかと想像するが、実に淡々とした引き際だった。いかにもイチローらしいと感心した。
 個人でも、国という単位でも、自分自身を正確に認識することは難しい。特に、過去に栄光の時代を経験し、誇らしい思いをした人ほど、過去の残像にしがみつくものである。日本というまとまりで振り返れば、人口減少時代に入り、経済成長をけん引した産業の多くも消えていった。残念ながら、衰弱の局面である。もちろん、国が廃業するわけにはいかないので、課題を乗り越え、後世に文明を引き継がなければならない。
 そのためにも的確な自己認識が必要である。折しも、現役の厚労省官僚がソウルで泥酔し、暴言を吐くという情けない事件が起こった。エリートにあるまじき愚行である。
衰退の入り口で、現実を否認して夜郎自大の国民になるのか、現状を受け入れて成熟、賢慮を発揮する国民になるのか、今は分かれ道である。日本人が、他者を見下すことによってしか自分の存在意義を見つけられないような、情けない国民になってはならない。

3月24日

2019.04.11 Thursday 17:33

生命の尊さ


 人工透析を打ち切った患者が死亡した事件を機に、人間の生命の尊さについて考えなければならない。この事件は偶発的なものではなく、生命を軽んじる風潮の現れだと思える。
ある雑誌の新年号で、若手の評論家が、死の1か月前に医療をやめれば医療費が大幅に削減できると発言し物議をかもした。少し前には、維新から衆議院選挙に出馬した人物が、人工透析患者は自業自得なので、費用は全額自己負担にせよと発言し、批判を浴びた。前者は無知、後者は確信犯という違いがあるように思えるが、支払い能力によって命の長さに差ができることを当然と考えていることは共通している。
今月初め、日本産科婦人科学会は、出生前診断の手続きを簡易化する方針を打ち出した。もしこれが普及すれば、子供が障害を持って生まれたことは親の自己責任という感覚が一般化する恐れがある。そうなると社会福祉は大きく後退する。
 救うべき命と救わなくてもよい命が区別できるという議論を始めたら、個人の尊厳、平等という近代社会の根本原理は崩壊する。生きるに値する人と値しない人をどう識別するのか。それが可能だと言い出せば、生きるに値しない人間を大量にガス室で抹殺したナチスの思想に限りなく近づいていく。我々は正気を保たなければならない。

東京新聞3月17日

2019.04.11 Thursday 17:32

あれから8年


 また311が来る。記録改ざん、データ捏造が横行する安倍政治の下では、過去の教訓に学べと叫んでも空しいばかりである。しかし、過去の失敗を無視して、原発をベースロード電源と位置づけ、再稼働に狂奔する安倍政権の政策は、亡国への道だと言い続けるしかない。
 エネルギー転換といえば、1960年代に石炭から石油へという大転換が起こった。その過程で、福岡県の三池炭鉱の労働者は人員整理に反対し、戦後最大の争議を起こした。当時真剣に戦った人々には申し訳ないが、これは時代の流れに逆らう無謀な戦いで、敗北を運命づけられていた。階級闘争のイデオロギーではエネルギー転換に勝てなかった。
 いま、あの時の労働組合と同じことを政府が行っている。階級闘争のイデオロギーに代わって、原発産業に絡む利権を守りたいという欲望に駆られた官僚、経営者、政治家が時代の流れを無視して、高コストの原発にしがみついている。
炭鉱閉山の時と違って権力の側が時代に背を向けて亡国の道を走る時、それを止めるのは民主主義の仕組みと市民のエネルギーしかない。あれだけの事故を起こしながら何も変わらなかった日本の記録が百年後の博物館に陳列され、嘲笑されるのは耐え難い。今を生きている日本人の知力と意志が問われている。

東京新聞3月10日

2019.04.11 Thursday 17:31

沖縄の民主主義


 沖縄県民投票では、辺野古基地建設に対する圧倒的な反対の意思が表明された。これに対して、安倍政権とその意を体した全国メディアは、この民意を矮小化するために見苦しい努力を払っている。
 NHKやいくつかの新聞は、住民投票の結果についてなぜか突然絶対得票率を使って反対派が県民全体の中での少数派であることを浮き彫りにしようとした。最低投票率が規定されていない選挙では、棄権者はカウントしないのがルールである。全有権者中の一部の意思だなどと言い出したら、安倍政権だって正統性がないことになる。
 岩屋防衛大臣は、沖縄には沖縄の、国には国の民主主義があり、辺野古基地建設は進めると述べた。選挙で勝利した安倍政権が進めている政策だからといって、民主主義の仕組みを経たと胸を張って言えるのか。行政不服審査を使って県知事の埋め立て許可撤回を無効にするという姑息な手を使い、技術的な可能性、予算の膨張など当然の疑問に対しても何ら説明はないままである。
 建設賛成の人も含めて過半数の沖縄県民が投票に参加して県民投票に正統性を与えたことは、沖縄県民が民主主義を大事にしていることの現れである。国政の指導者は、真摯に受け止めると虚言を並べるだけで、民主主義を蔑視している。

東京新聞 3月3日

2019.02.22 Friday 19:00

支持率の怪


 通常国会では予算委員会の論戦が始まり、毎日、安倍政権の失態がこれでもかと明るみに出ている。野党議員との論戦における安倍首相の逆切れ、はぐらかしを見ていると、こんな人物が我が国の最高指導者を務めていることに、絶望的な気分になる。
 しかし、一連の不祥事は政権に対する信頼を低下させているわけではない。2月のNHKの世論調査では、内閣支持率は微増して、44%となった。NHKといえども世論調査のデータ捏造はしないだろう。我々はこの現実を受け入れなければならない。個々の政策問題については、安倍政権のやり方を是認する声が多数派というわけではない。景気回復を実感せず、行政の不正に怒る普通の人が、それでもこの政権を支持するのはなぜか。
 内閣府が毎年行っている社会意識調査を見ると、2011、12年あたりを境に、日本社会の現状に対する満足感は高まり、中国や韓国に対する親近感は低下し、財政や格差に対する危機感は低下していることがわかる。この変化の原因についてはさらに考察が必要だが、民意の変化が先にあって、安倍政権は後からその現状肯定的な民意にサーフィンしているというのが今のところの仮説である。
 厳しい現実から目を背け、根拠のない多幸感に逃げ込む民意に迫ることが、政治転換の鍵となる。

東京新聞2月17日

2019.02.22 Friday 18:59

報道の自由


 昨年末、首相官邸の報道室長が内閣記者会に対して、名指しはしないものの本紙の望月衣塑子記者を標的に、事実に基づかない質問は現に慎むようにという文書を送り付けた。この事実は『選択』という会員制雑誌で明らかにされ、にわかにマスメディアの報じるところとなった。この間、報道各社は何をしていたのかという疑問もあるが、最も悪いのは首相官邸である。
 官房長官の記者会見で政府の政策や見解について事実根拠や法律適合性を問われても、菅官房長官は、「問題ない」、「適切に処理している」と、人を小ばかにした、木で鼻をくくったような返答を繰り返してきた。問題ないも適切も、しょせん菅氏の主観である。記者会見で質問されたら、事実や法的根拠を示して、政府の正当性を記者、さらにその背後にいる国民に納得してもらうのがスポークスマンの仕事である。
 官房長官の主観で事実を覆い隠す記者会見を繰り返しながら、記者は事実に基づいて質問しろとは何事か。公文書改ざん、統計不正、すべて握りつぶし、責任逃れをしてきた政府が、事実という言葉を使うとは、恥知らずの極みである。
 望月記者がこんな言いがかりでひるんでいるはずはないと思う。ことは、報道の自由にかかわる。報道界全体が政府と対決する時である。

東京新聞 2月10日

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