2019.02.22 Friday 19:00

支持率の怪


 通常国会では予算委員会の論戦が始まり、毎日、安倍政権の失態がこれでもかと明るみに出ている。野党議員との論戦における安倍首相の逆切れ、はぐらかしを見ていると、こんな人物が我が国の最高指導者を務めていることに、絶望的な気分になる。
 しかし、一連の不祥事は政権に対する信頼を低下させているわけではない。2月のNHKの世論調査では、内閣支持率は微増して、44%となった。NHKといえども世論調査のデータ捏造はしないだろう。我々はこの現実を受け入れなければならない。個々の政策問題については、安倍政権のやり方を是認する声が多数派というわけではない。景気回復を実感せず、行政の不正に怒る普通の人が、それでもこの政権を支持するのはなぜか。
 内閣府が毎年行っている社会意識調査を見ると、2011、12年あたりを境に、日本社会の現状に対する満足感は高まり、中国や韓国に対する親近感は低下し、財政や格差に対する危機感は低下していることがわかる。この変化の原因についてはさらに考察が必要だが、民意の変化が先にあって、安倍政権は後からその現状肯定的な民意にサーフィンしているというのが今のところの仮説である。
 厳しい現実から目を背け、根拠のない多幸感に逃げ込む民意に迫ることが、政治転換の鍵となる。

東京新聞2月17日

2019.02.22 Friday 18:59

報道の自由


 昨年末、首相官邸の報道室長が内閣記者会に対して、名指しはしないものの本紙の望月衣塑子記者を標的に、事実に基づかない質問は現に慎むようにという文書を送り付けた。この事実は『選択』という会員制雑誌で明らかにされ、にわかにマスメディアの報じるところとなった。この間、報道各社は何をしていたのかという疑問もあるが、最も悪いのは首相官邸である。
 官房長官の記者会見で政府の政策や見解について事実根拠や法律適合性を問われても、菅官房長官は、「問題ない」、「適切に処理している」と、人を小ばかにした、木で鼻をくくったような返答を繰り返してきた。問題ないも適切も、しょせん菅氏の主観である。記者会見で質問されたら、事実や法的根拠を示して、政府の正当性を記者、さらにその背後にいる国民に納得してもらうのがスポークスマンの仕事である。
 官房長官の主観で事実を覆い隠す記者会見を繰り返しながら、記者は事実に基づいて質問しろとは何事か。公文書改ざん、統計不正、すべて握りつぶし、責任逃れをしてきた政府が、事実という言葉を使うとは、恥知らずの極みである。
 望月記者がこんな言いがかりでひるんでいるはずはないと思う。ことは、報道の自由にかかわる。報道界全体が政府と対決する時である。

東京新聞 2月10日

2019.02.22 Friday 18:56

景気回復の虚妄


 基幹統計のずさんさが明らかになり、アベノミクスが効果を上げているかかどうか、疑念が広がっている。統計疑惑のさなかに、政府は29日に月例経済報告を公表し、景気回復が戦後最長となったと見られるとした。
 景気回復の実感がないという話は各紙も伝えていた。回復どころか、むしろ日本の経済力が衰弱していることこそが、大問題である。1月30日の他紙に、経済同友会代表幹事、小林喜光氏のインタビューが載っていた。その中で、安倍政権の6年間、見かけ上の企業業績改善の陰で、日本では何の新産業も生まれておらず、日本を引っ張る技術がないことに強い危機感を表明している。日本は老いているという指摘に、門外漢の私も共鳴した。
 安倍政治の最大の罪は、世の中に根拠のない多幸感をまき散らしていることである。こんなでたらめな政治を容認する人々が国民の半分前後いること自体が国難である。国の衰退を止める特効薬はない。社会や経済の活気は多事争論の気風から生まれる。バブル崩壊以来、日本は誤った道を進んできたのだから、己の失敗を厳しく認識することからしか、債券は始まらない。愛国心やら日本人らしさやらを学校で若い人に教えこむのはやめた方がよい。自画自賛の人間を育成するのは、将来を危うくする。

東京新聞2月3日

2019.02.22 Friday 18:53

「問題ない」という大問題

 日本政府の要路の人々から、政策について国民に対して筋道立てて説明するという常識が廃れて久しい。その大きな理由の1つに、菅義偉官房長官の記者会見があると思う。
 本紙の望月衣塑子記者が重要な案件についての政府見解を質すべく奮闘しているが、菅長官は「問題ない」と木で鼻を括るような返答をすることが多い。最近の事例では、安倍首相がテレビで辺野古の珊瑚を移植したと発言したことの真偽を問われても、この返答を繰り返した。
 首相が、実現不可能な珊瑚の移植を口実に辺野古への土砂投入を正当化するのは、犯罪的な虚言である。なぜ問題ないのか、その根拠を望月記者とその背後にいる国民は知りたいのだ。官房長官が問題ないという主観を語れば、現存する問題は消滅するとでも言いたいのか。そのうち、安倍首相が2足す2は5だと言い出しても、官房長官は問題ないと言うのだろう。
 最高権力者がこれだから、お偉方はみなそれをまねる。オリンピック招致をめぐる賄賂疑惑について、竹田恒和JOC会長は、自分は関与していないと一方的に主張する「記者会見」を開いた。しかし、主観的な「問題ない」は外国のジャーナリズムには通用しない。
 「問題ない」の蔓延は、日本の信用と国力を損なう。

東京新聞1月20日

2019.02.22 Friday 18:52

事実を直視する


 小学生の時の理科の時間で、ゴムひもの端に重りを付けて、重さとゴムの伸びをグラフに表すという実験をしたとき、重さと伸びが正比例するようデータをごまかしたことがある。ゴムひもの場合、ばねと違って比例しないのだが、比例するはずと思い込んでデータをいじったわけである。それを見つけた先生は、日ごろは面白い人だったが、それこそ血相を変えて怒った。事実を自分の都合に会うようにねじ曲げてはいけないという先生の怒りは、子どもの頃の最大の教えだったと今にして思う。
 今の日本は、客観的事実と自分の主観を区別できないという深刻な病に陥っている。毎月勤労統計調査の不備だけではない。働き方改革法案の基礎となった実態調査もずさんだったし、昨年秋には日銀が内閣府に対してGDP算定の基になっている経済統計の原データを開示するよう求めたが内閣府はこれを拒んだという報道もあった。
 正確な事実を共有することは、政治におけるあらゆる議論の大前提である。一部の統計の不備は調査人員の削減に伴うごまかしかもしれない。しかし、政権の政策実績を肯定的に宣伝するために物差しそのものをゆがめているという場合もあるのではないか。安倍政権は、ダイエットをせず体重計に細工をすることでスリムになったと言い張っているように見える。

東京新聞 1月13日

2019.02.22 Friday 18:51

忖度による自縛


 辺野古新基地建設は日米同盟のために不可欠というのは本当だろうか。日本政府が米国と再交渉するのが面倒なので、遮二無二基地建設を進めているとしか、私には思えない。
 今から9年前、当時の鳩山政権の下で辺野古問題が紛糾していた時、私は当時の駐日米国大使のジョン・ルース氏と長時間話をしたことがある。彼は私に次のように言った。「新しく選ばれた政府も前の政権が外国と結んだ約束を実行しなければならないと、我々は言おうと思えば言ったが、そうは言わなかった。日本は民主主義の国であり、国民が選んだ政府が新しい提案を持ってくるなら、それもあるだろう。ボールは日本の側にある。」
 日本政府は県外移設について一度も米国に提案をしたことはない。県外移設は米国に拒絶されたのではない。それ以前の段階で、国内の諸勢力が県外移設構想をつぶしたのである。選挙で新しい民意が示され、基地建設計画を取り巻く環境が変わったと言えば、結論が変わるかどうかは別として、話し合いはできるはずである。話し合いから新たな解を見つけるのが政治の妙である。
 安倍首相は国内の権力者であり、官僚もメディアも忖度し、ご機嫌を取る。その首相も自分より強い権力者には忖度し、国民の思いを伝えることができない。これこそ、日本政治の不幸である。

東京新聞1月6日

2019.02.22 Friday 18:50

政治家に国語教育を


 今年読んだ本でもっとも役に立ったのは、新井紀子氏の『AI vs. 教科書が読めない子供たち』(東洋経済新報社)である。数学者の新井氏は、AIが人間の能力を追い越すことはないことを明らかにした。しかし、現在の若者は国語の教科書を読み、理解することがおぼつかなくなっている。
 しかし、読解力の欠如、さらには論理的思考力の喪失は若者だけの問題ではない。読者の皆さんも気づいているだろう。国を動かす指導者こそ、新井氏の本を読んで、言語によるコミュニケーションや思考の基礎を身につけなければ、日本の未来は危うい。
 今年も国会では多くの法律が成立し、審議の過程では論争があった。しかし、政府の側は捏造したデータに基づいて法案を作成するなど、論理以前の不正が横行した。また、野党議員の質問にまともに答えない不誠実が日常化し、「ご飯論法」が流行語となった。また、沖縄に寄り添うという安倍首相の言葉が空虚であることは明らかである。
 この度、日本が国際捕鯨委員会を脱退するにあたり、河野外相は日本の考えを捕鯨反対国に「丁寧に説明」したいと述べた。国会でろくに説明できない政治家が外国人を相手に何を説明するというのか。言葉や論理を大事にすることこそ、政治を立て直すための出発点である。

東京新聞12月30日

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