2010.01.10 Sunday 00:39

2010年の日本政治と民主党の課題

 12月に行われた各紙の世論調査では鳩山政権の支持率が急落し、50%を割るものもあった。歴史的な政権交代からわずか3か月経っただけなのに、民主党にとっては厳しい年始となった。初めて迎える通常国会において、予算と重要法案をどのように通すか、政権と与党の体勢を立て直すことは急務である。

 支持率低下の最大の理由は、鳩山首相の指導者としての資質に対する国民の疑念である。予算編成、税制改正についての重要懸案については、ようやく1221日に首相自身が方針を示したが、重要な政策課題について首相が自ら決断を下したのはこれが最初である。それも、小沢幹事長から予算編成についての要望が提出されたことを受けての判断だったわけで、権力の重心が小沢幹事長に移っているという印象を与えたことは否定できない。

 気の早い週刊誌は鳩山退陣を取りざたしているが、民主党は何としてもこの体制で通常国会を乗り切り、参議院選挙に臨まなければならない。仮に鳩山がほんの数か月で政権を投げ出すなどということが起これば、所詮民主党のリーダーも福田や麻生と同列だと国民は結論を下すだろう。そうなると、民主党の危機ではなく、民主政治の危機である。そのあとに出てくるものは、質の悪いポピュリズム政治であろう。民主党は石にかじりついてでも鳩山政権を支えていかなければならない。

 体勢の立て直しは容易ではないが、試行錯誤を率直に認め、国民に理解を求めることと、政策体系の方向を示す理念を立て直すことの2つが必要である。初めて起こした政権交代であり、政権運営や政策実現の手はずを整える点で、いろいろと失敗や見込み違いがあったことは、率直に明らかにし、試行錯誤をすればよい。その点については、国民はまだ寛容であろう。

とくに、政府与党一元化という掛け声の下、政務三役が処理不能なくらいの情報と仕事を抱え込み、パンク寸前なのに対し、無役の与党議員は小沢幹事長の訪中に同行するくらいしかやることがないというアンバランス。政務調査会を廃止して幹事長室に陳情を一元化した結果、かえって政府と与党の二元的な政策調整の仕組みが露呈されたことなど、民主党政権のガバナンスには問題点が多い。この点を素直に認め、多くの与党政治家が政務三役を支え、国民に見える形で政策論議を積み上げ、物事を決めるという仕組みを早急に整備し直すべきである。

2つ目の理念の明示はもっと重要である。予算編成の終盤に至るまで、重要な政策決定について閣僚間で異論が交錯したのは、民主党の指導層が重要な政策の理念、価値観を共有していなかったからである。年頭に当たって、改めて民主党政治は何を目指すのか、理念と目標を打ち立てなければならない。揮発油税の暫定税率廃止を見送る決定について、マニフェスト違反という批判が新聞に踊った。しかし、そうした判断は聞き流せばよい。そもそも昨年の総選挙に向けて民主党が打ち出したマニフェストは、政策項目の羅列(manifest)であって、政治的宣言(manifesto)ではなかった。政策大系全体を貫く思想が欠如していたからである。早い話が、鳩山首相が世界に向けて宣言した温室効果ガスの削減と、化石燃料への減税は両立する話ではない。こうした矛盾する政策が並列していれば、どちらを取るか政治的な判断をしなければならない。化石燃料の消費の抑制という歴史的な方向性に照らして、今回の判断は当然であった。

 民主党はマニフェストを守れなかったことをわびるのではなく、そもそもマニフェストが理念を欠いたものであったことをわびるべきである。そして、地球環境問題への貢献、国内における貧困・不平等の解消、人間の尊厳を守るなど、基本的な価値観を明示した上で、マニフェストについて、すぐに実現するもの、中期的に実現するもの、政権公約から外すものという仕分けを行うべきである。

 今年も政局の主役は小沢一郎ということになるのだろう。今年の最大の政治イベントはいうまでもなく夏の参議院選挙である。小沢幹事長は参院選での過半数獲得を最大の目標に据えて、予算編成・税制改正から党務までを組み立てている。幹事長室で陳情をさばき、予算の重点要望を整理したことも、選挙対策の色彩が濃い。参院選の場合、大組織の力量が直接現れる比例代表部分があるので、自民党の支持基盤を掘り崩すという政治闘争の視点で戦略を立てることにも理由がある。

 しかし、小沢戦略に全面的に頼ることには大きな危険がつきまとう。いくら組織を固めて、煉瓦を積み上げるような集票活動をしても、政権支持率が低下し、鳩山首相に対する不信感が蔓延するような状況が生まれれば、組織されていない市民の票がそうした煉瓦の壁を簡単に突き崩すからである。通常国会に民主党の理念に沿った政策を提案し、これを実現するという正攻法で、国民の支持を取り戻すしかない。

 小沢にとっては、未熟な閣僚が政策調整に手間取っているから、自分が乗り出さざるを得ないという気持ちになるのも当然である。政府が政策を、幹事長は党務と選挙を仕切るという役割分担は、机上の空論である。与党が政策調整に参加するのは当然である。問題は幹事長室という部署が集権化されたブラックボックスであり、小沢の心中を周囲の人々がひたすら忖度しているという状況である。

民主党における理念の立て直しには、小沢幹事長も参加すべきである。厳しい財政事情の中で生活第一をどのように具体化するのか、対等な日米関係の構想をどのように提示し、発信していくのか、といった重要テーマについて、鳩山政権、民主党が一体となって、明確なメッセージを伝えることで、真の政府・与党一体化が実現するのである。(週刊東洋経済1月9日号)


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