2018.04.09 Monday 14:23

緊急事態

 このところ、官庁で文書の隠蔽、捏造、改ざんが相次いでいる。我々の日常的な活動において、契約書の文言をこっそり書き換えるとか、あるはずの文書を隠して廃棄したと言い張るとかいったことが起これば、取引は成り立たない。役所には我々の常識は通用しない。
 しかし、雨が降ろうが槍が降ろうが安倍政権を正当化したい人はいるものである。彼らの言い分は、朝鮮半島情勢や日米関係が急展開する中、日本の国会やメディアはいつまで文書改ざんや隠蔽に没頭するのかという、一見国益を重んじる議論である。冗談ではない。非常識な政府が重要な政策を決めること自体が国益を損なっているのである。
 自衛隊の活動記録にせよ、国有地の不正な値引きにせよ、1年以上前から野党やマスコミは疑問を呈し、真相の解明を要求してきた。しかし、安倍政権は官僚の子供じみたごまかしを擁護し、根拠もなしに問題ないと強弁し続けた。政府の指導者が初動の段階で率直に問題の存在を認め、情報公開を実行していれば、今頃野党に足を引っ張られるなどと泣き言をいう必要はなかったはずである。
 自民党の改憲案は緊急事態への対応が必要だという。今がその緊急事態なのだ。そして、それへの対応策は改憲ではなく、内閣総辞職あるのみである。

東京新聞 4月8日

2018.04.02 Monday 16:18

エイプリルフール企画 没の作品

エイプリルフール企画には別の原稿も用意した。PCの中に眠らせていてももったいないので、ここで公開しておく。

ごめんなさい
 この1年、森友・加計の2つの問題で、権力の私物化という厳しい批判を受け続けてまいりました。正直なところ、仲の良い友人に対して便宜を提供することは構わないだろうと軽く考えていました。私は全能の権力者だと驕っていたのです。
 より大きな問題は、不正が発覚したのち、1年以上にわたって事実を隠蔽し、財務官僚による公文書改竄という未曽有の犯罪までも招き寄せたことです。昨年の今頃、森友学園に対する国有地払い下げの価格算定に不正があったことを正直に認めて、綱紀粛正を図っていれば、自殺者を出さずに済んだことでしょう。
 私の妻は籠池氏に騙されたと言いましたが、これも見苦しい言い訳でした。実は、森友学園の忠君愛国教育に私と妻は心より共鳴し、何とか小学校開設を応援したいと思っていました。もちろん、私が直接指示したわけではありません。洞察力に優れた官僚の皆さんが私の思いを察知し、籠池氏に様々な優遇を与えたのです。
 私が世界の現実から目を背けている間に、日本は世界の孤児になろうとしています。朝鮮半島の緊張緩和の動きからは置き去りにされ、盟友トランプ大統領からは高率関税をかけられる始末。この際、日本の国難を打開するために、私は総理の職を辞することを決意しました。国民の皆様、ごめんなさい。


恐るべき子供たち
文明が滅ぶとき、恐るべき子供たちが世の中にあふれるようになる。
子供の情景1
「兄ちゃんがジョンは悪い奴だというから僕もそう信じてきた。甘い顔を見せたら、奴はいくらでも付け上がって僕たちをやっつけるとみんなに言いふらしてきた。ジョンと隣り合う文太の家で雪合戦大会があった時も、僕は兄ちゃんの代わりに文太の家に行って、ジョンをやっつける喧嘩の練習をさぼるなよと脅かしてやったんだ。それを今になって、兄ちゃんとジョンが仲良く話し合いをするだって。おまけに、今まで兄貴に金をせびってきたのはもう許さないと脅かされた。こわいよー」
子供の情景2
「シンちゃんの友達だったら、テストの答案を出した後でも、間違いを消しゴムで消して書き直すことができていたって。先生もシンちゃんの友達を特別扱いしてたことが分かったんだ。」
「そんなバカな話はないよね。」
「やっかむんじゃないよ。クラス委員長のシンちゃんは偉いんだから絶対に間違うことはない。だからシンちゃんの仲良しも間違わないんだ。間違ってましたと謝るよりも、後でいろんな細工をして、委員長は絶対に間違わないという体裁を整えるのが美しい学級だ。口惜しかったら教育勅語を暗唱して、仲間に入れてもらえよ」

2018.04.02 Monday 16:16

愛国のススメ


 政府はこのたび、国民の愛国心をさらに涵養するために、愛国マイレージプランを実施することになりました。愛国心の大きさによって級、段位を獲得し、それに応じて特典が得られるというお得なプログラムです。
 靖国神社に10回参拝したら10級、教育勅語を暗唱できたら1級、産経新聞のコラムを1年間毎日ノートに書き写したら初段、百田尚樹氏の小説全作品を読破したら3段など、愛国心の度合いによって段位が認定されます。最高位は十段ですが、これは教育者向けで、百人以上の教え子に教育勅語を暗唱させることができれば、日本一の愛国者に認定されます。
 特典もいろいろです。10級は総理夫人との握手券、初段を取れば、試験の時に一度提出した答案を書き直すことが認められます。5段になると、外れ馬券を買っても、レースの後にその数字を勝ち馬の番号に書き直すことが認められます。十段の方には国有地をただで進呈します。
 今や愛国心を高めることは、他の人にはない特権を得るための早道です。この仕組み、今の政権が終わったらなくなると心配する方もいるかもしれません。大丈夫です。隣国の指導者に倣い、わが国でも総理の任期を無期限とする憲法改正を実現します。愛国心のある国民は賛成するはずです。

4月1日
東京新聞特報面恒例のエイプリルフール企画の原稿
紙面では固有名詞がぼかされたが、これがオリジナル

2018.03.27 Tuesday 17:20

汚れた手

 今日は自民党大会が開かれる。そこで、憲法改正の具体的な案を提示することになると各紙は報じている。9条に関しては、昨年の5月3日に安倍首相が打ち出した通り、9条の本体は残しつつ、自衛隊の明記を追加するという形に落ち着くと見られている。
 このニュースを見て、泥棒が刑法改正を提案するのと同じだと呆れるばかりである。憲法の第4章以降は、広い意味での国家権力の行使に関するルールブックである。73条は、内閣の職務の中でもいの一番に、「法律を誠実に執行し」と規定している。憲法を読み直して初めて気づいたのだが、第4章以降の条文はすべて無味乾燥な言葉で構成されている。前文を除けば、誠実にという心構えをあえて書き込んだ条文は73条くらいである。
 三権の中でも国民に最も大きな影響を与える行政権の担い手は、とりわけ、まじめに、正確に、公平に仕事をしなければならないという憲法の原理を、この文言は表現したものだと理解すべきだろう。
 文書改竄、国有地不当値引きをめぐる追及が厳しい中で、改憲を発議しようとするのはよほどの無神経か、疑惑隠しの策略か。安倍政権は1年前に疑惑が発覚して以来、法律違反を放置し、問題の解明を怠ってきた。この内閣はずっと憲法73条を踏みにじってきたのである。汚れた手で憲法に触るな。

東京新聞3月25日

2018.03.27 Tuesday 17:19

公共教育

 2022年度から始まる高校の新科目「公共」の内容が先月公表された。このニュースを見たとき、米国の高校で起こった銃乱射事件を契機に、高校生が銃規制の強化を求めて大きな運動を起こしたことが、良い教材になると思った。公共的なものへの関心や責任感とは、政府の行動や世の中の仕組みが本当に人々のためになっているかどうか自分なりに考え、おかしいと思うことにはおかしいと声を上げることである。
 米国はいいなと思ったが、日本も捨てたものではない。公共への責任感が発露、伝播する実例が現れた。言うまでもなく、財務省による文書改ざん、国会に対する虚偽答弁に対する官邸前や各地の抗議行動である。為政者は権力を私物化し、市民は公の道理を守るために声を上げる。分かりやすい対照である。
 しかし、教育を所管する文科省の官僚は公共精神を持っていない。名古屋の公立中学校で前川喜平前文科次官が授業を行った際、その内容を事後的に検閲しようとしたことが報じられている。何とも陰湿な話だ。子どもも親も、前川氏の夜間中学でのボランティアなどから、良い社会を作るためにどうするかを学び、考えを深めたことだろう。政権に歯向かった前川氏が公立学校で授業をしたのは一大事と騒ぐ御殿女中のような官僚が公共教育を監督するなど、噴飯ものである。

東京新聞3月18日

2018.03.27 Tuesday 17:18

文明対野蛮

 安倍首相が明治維新を称揚するのは、この変革によって日本が近代国家になったからだと推察する。近代国家を成り立たせる本質は何か。それは、君主制であれ民主制であれ、為政者がほしいままに権力を振るうのではなく、人民を支配する為政者といえども憲法や法律にのっとって権力を行使するという点にある。明治憲法も、日本が野蛮なサムライ支配の国ではなく、法に基づいて支配が行われる文明国になったことを示すために、首相の尊敬する維新の功臣が必死で作ったものである。
 今、安倍政権の下で起こっているのは野蛮国への逆行である。国有地を首相夫人が名誉校長を務める学校法人にタダ同然で譲渡するのは犯罪行為である。この件を「特殊」と表現した公文書を後で改竄したならば、それはもっと悪質な犯罪である。労働法制の立法に当たり、政府の言い分を正当化するように調査データを捏造するのも罪である。法への敬意、廉直、客観性の尊重など近代文明を支えてきた徳目が消滅すれば、行きつく果ては専制国家である。
 安倍政権こそ、先人が150年かけて築いてきた立憲国家、法治国家を破壊している。首相が日本を愛するというなら、率先して疑惑解明の指揮を執るべきである。このまま法体系の崩壊を放置するなら、首相こそ最大の反日政治家という汚名を着ることになる。

東京新聞3月11日

2018.03.27 Tuesday 17:17

傲慢という落とし穴

 イギリス労働党の政治家、閣僚経験者で医師でもあったデヴィッド・オーウェンは、後輩であるトニー・ブレアとジョージ・ブッシュがイラク戦争を始めた政策決定を分析し、The Hubris Syndrome(傲慢症候群)という本を書いた。権力は為政者にとって依存症に陥らせる薬物のようなものであり、長年権力に居座ると傲慢こそが命取りになる。オーウェンが指摘するまでもなく、これは古代ギリシャ以来語り継がれた真理である。今、裁量労働制の撤回に、森友学園への国有地売却をめぐる公文書の改ざんという疑惑も浮上し、安倍晋三首相もこの病理に陥った感がある。

 昨年夏、通常国会が森友問題で紛糾し、共謀罪の強行採決で閉幕した直後、安倍政権の支持率が急に下がり始めた状況の中で、当時の民進党の議員と議論したことを思い出す。彼は、「横綱相撲を取られていたら、野党は手も足も出なかっただろう」と述懐していた。横綱相撲とは、野党からのまっとうな質問に対しては正面から受け止め、間違いがあれば早期にそれを認めて謝罪し、是正すべきところがあれば改めるという姿勢である。自らも誤る可能性があることを前提とし、誤りに対して誠実に対処するという姿勢こと、政治に対する信頼を作り出す。モリ・カケ問題について政府の側に一点の曇りもないというのは度の過ぎた強がりであり、自己正当化であった。安倍首相や政府与党の指導部は、森友疑惑の深刻さと国民の正義感の健全さを軽く見ていたと言うしかない。

 昨年7月の東京都議会選挙における自民党の大敗は、モリ・カケ問題に表れた権力の腐敗と、共謀罪に現れた強引な政権運営に対する人々の反発ゆえであった。政権支持率はしばらく不支持率を下回った。その後、北朝鮮によるミサイル発射、民進党の分裂などの要因があり、総選挙での勝利の後は政権が安定を回復したように見える。しかし、それは政権地震の反省や努力で勝ち取ったものではない。政権の基盤は依然として脆弱である。

 森友疑惑や裁量労働制と労働時間をめぐるデータのねつ造問題は政治、行政の両面で大きな問題を引き起こしている。まず、行政において近代官僚制の崩壊といってもいい病理が起こっている。マックス・ウェーバーの官僚制の規定の中で、文書による行政はもっとも基本的な原則としてあげられている。調査データの中から政府が掲げる政策を正当化するようなものだけを恣意的に選び出して資料をこしらえるなど、近代官僚にあるまじきでたらめである。また、いったん確定した文書を、あとから政府の指導者や官僚組織自身にとって都合の良いように書き直すことが横行するならば、国を挙げて後出しじゃんけんを奨励するようなものである。

 近代行政を前近代の恣意的行政から分かつのは、法律に基づく行政であり、法の下の平等である。権力者に近い人を行政機関が予算配分や許認可に関して、制度・手続きを無視して特別扱いするということは、日本で言えば江戸時代以前への逆行である。首相や閣僚が関係省庁に特別扱いを明示的に指示したかどうかはわからない。少なくとも、官僚が政権中枢の意向を慮って特別扱いをしたことは事実である。悪しき意味での党派性を排し、公平な行政を確保するための政治と行政の間の隔壁が崩れている。内閣人事局の運用について、見直しを加えるべきである。

 この隔壁が崩れたことを悪用して、新たに自分たちの権益を追求している官僚もいる。地道な産業政策は効果なく、手っ取り早く政府の規制を取り払い、政権に近い人々に新しい利権を提供することが「戦略」となった。政権の目玉政策という看板を掲げれば、道理のない政策も推進できる。この種の戦略を打ち上げる官邸中枢の産業競争力会議、未来投資会議、国家戦略特区諮問会議などの会議体が、加計学園問題の起源である獣医学部の新設や、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度の導入などの労働法制の一層の規制緩和を打ち出したのである。こうした政策が誰の負担において、誰に利益を与えるか、一連の疑惑をめぐる議論から明らかになっている。

 政治の側で公平性、合法性、正当性が捨て去られることの問題については、昨年6月の本欄で既に指摘した問題が一層悪化しているということである。そこで述べた家産国家という問題、つまり権力者において公私の分離がなくなり、権力を私的な利益のために恣意的に使うことについて歯止めがなくなる現象について、安倍首相は全く反省していないようである。閣議決定で私人と認定された首相夫人が名誉校長を務めていることが、森友学園に対する国有地売却を財務省職員が「特別」と表記した原因である。こうした疑惑に対して説明責任を全うできないなら、首相には国政の最高指導者たる資格はないと言わなければならない。

 権力者が自ら襟を正そうとしない以上、国会論戦で野党が追及するしかない。野党の姿勢について、一部のメディアや識者の中にはスキャンダル追及だけではだめだとか対案・提言が必要だと言った利いた風な議論がある。こうした議論は、問題状況を無視して野党の特定のモデルを押し付けるもの、いわば元に火が燃え盛っている建物について消火するのではなく、耐火構造への転換の設計図を描けと言うようなものである。その結果は、政府与党を利することになる。労働法制やエネルギー政策に関して野党は提案を作ろうとしている。そうした政策論は大いに進めればよい。しかし、政治の腐食、行政の崩壊に対しては、現状を明らかにし、その責任を追及することこそ野党の使命である。

 最後に1つ強調しておきたいのは、家産国家への逆行を推し進めるような為政者に憲法をいじる資格はないということである。疑惑の本質が明らかになればなるほど、安倍政権下の憲法改正には反対という世論が強まるに違いない。

週刊東洋経済 3月17日号

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